ダメな大人のゆるい日常を描いた『スキャナー・ダークリー』
- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
- 発売日: 2007/12/14
- メディア: Blu-ray
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- 作者: フィリップ・K.ディック,Philip K. Dick,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/11/01
- メディア: 文庫
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クインシー、コクトー、バロウズ、ウルフ、作家を問わず構わず手当たり次第に読んだ。
評判が悪い「ナチュラル・ボーン・キラーズ」もいい感じの映画だと思っている。「イージー・ライダー」でも一番好きなのは幻覚シーンだ。
近年日本の情勢はイギリスに似てきたせいか、ラノベという欲望を特化させたジャンルにもジャンキーものが出現しつつある。
「N・H・Kへようこそ!」や「エレGY」に登場するドラッグは合法の精神薬だが、ODや依存という点でドラッグものだ。
SFにも昔からドラッグがよく目立つ。特にP・K・ディックは自身も常用者ということも相まって非常にジャンキーSF小説が多い。
「スキャナー・ダークリー」はそんなP・K・ディックが原作の、同名タイトルジャンキー映画だ。公開は2006年。
昨日、BD版を見掛けたので買ってしまった。
物質Dというドラッグが蔓延している近未来。覆面捜査官ボブ・アークターは捜査の為に自らもDを服用し、中毒者と同居生活を送っている。ある日かれは上司から指令を受ける。ボブ・アークターというジャンキーが怪しい。監視カメラを彼の家に設置し、彼を監視しろ。ボブ・アークターは自分自身を監視し、自分自身の不審な行動をマークする。
この映画はロコスコープという手法を用いている。実写で撮影した映像にコンピューターから線を描き、アニメに変換する。
この手法を使うと、ゴテゴテとしたCGを多用することなく、カメラに収めたものはなんでもアニメになってしまうので、質量、動き共に究極のアニメ作品が完成する。同時に実写との分水嶺が非常に曖昧になるので観ている方はアニメ作品を観ながら生生しい役者の演技を体感できる。
監督のリチャード・リンクレイターは「ウェイキング・ライフ」というやはりロコスコープを使った作品で夢と死の狭間を彷徨う主人公を描いた。終盤近くでピンボールをしながらディックのことを延々と喋る人物が登場する。そこから遂に夢叶えたかという感が「スキャナー・ダークリー」の公開当時に強くあった。
なぜ実写をアニメに変換する必要があったのだろう。ジャンキーの幻覚シーン、日常シーンで有効だからだ。物質Dに脳を侵されている彼らは身体に虫が湧く幻覚を見、無意識に妄想に耽る。
もともとアニメーションというメディアは映像にしろ、言語にしろ、現実世界に根拠を求めないジャンルだ。
制作者の意図を画面でコントロールすることが容易なメディアだ。光や画面構図、彩色さえコントロール出来る。
邪魔なものは簡単に消去出来る。
その先鋭化が萌えアニメやセカイ系アニメだ。
実際にはありえない、萌えだけを追求した体型と顔。日常では発生しえない、異常な状況を日常に組み込んでしまい、基本設定に折り込む。作品独特の言語を自由自在に日常語として取り入れる。
僕たちアニメ好きはこのことをよく自覚しておかないといけない。
僕たちが大好きなアニメーションというジャンルは願望を先鋭化させただけのものに過ぎず、それだからこそ、面白いと。
「スキャナー・ダークリー」のリアルかつ一部が歪んだ映像はそう僕に教えてくれる。
まっとうな日常の画面と、麻薬による歪んだ画面を、まっとうならまっとうな映像のまま、歪んだなら歪んだ映像のまま抽出し、アニメにしてしまうという、制作者には体力を必要とする、観客にとっては残酷な手法によって。
宮崎駿の「ハウルの動く城」がアニメファンの間でいまいちだったのは歪んだものをそのまま映像にしてしまったからだ。
「スキャナー・ダークリー」の歪んだ映像の宮崎版が「ハウルの動く城」と言ってもいい。
彼はアニメの「全てを微温化する」というフィルターを力技で外し、そのままを映像にしてしまった。
ストーリー的にもシナリオ的にも非整合性を孕んでいたハウルは調整を施さないまま、非整合性を映像にしてしまった。
ハウルが劇中激しく糾弾する戦争がそうであるように。「ハウルの動く城」の非整合性を攻撃する人は、実はハウルの嫌う戦争を間接的に攻撃していることに他ならない。
「スキャナー・ダークリー」は陰謀劇としても秀逸だ。気が付くと落とし穴に落ちている。
トリッキーな未来技術と物質Dの中毒性、幻覚性が、オチと無理なく繋がっていく。
アニメとしても映画としてもこの作品は(商業的な観点や有名サイトの評価がどうであれ)完成度は高い。
映像的にも「実写とアニメの中間地点」を狙い上手く着地している。シナリオにも絡んでくる。
近年の日本映画はそのへんを狙いつつも、的外れ感が強い。CGを使用する事がいかに自分の作品に重要なのか悦に入ってインタビューに応じている監督はハリウッド映画を観る前にこの作品を意識したほうがいいだろう。
とにかくストーリー、映像共に優れたこの作品、カルト映画としてあんまり日の目をみないけど色んなことをアニメファンの僕に教えてくれる貴重な一本だ。ジャンキー映画としても、なによりアニメ作品としても何度も観返すだろう。
- 作者: フィリップ・K・ディック,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1984/12/12
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- アーティスト: マザーズ・オブ・インヴェンションフランク・ザッパ,フランク・ザッパ,マザーズ・オブ・インヴェンション
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