『戦国コレクション』の食事に見る物語の面白さ。

戦国コレクションアニメ漫画感想食事

戦国コレクション Vol.01 [Blu-ray]

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SENGOKU BEST COLLECTION

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HDDがブッ壊れた。という訳で今年の春アニメの冒頭部分が未試聴のままごっそり消えた。
ネットの最新アニメ話題にも今一ついていけず(琴浦さんはなんとか観られた)とりのこされた気分だ。
そういう訳でというのでもないのだけれど、CSで好きな戦国コレクションのリピートがはじまったので再試聴することにした。
戦コレなら再試聴に足るアニメだし。
ところが再試聴すると色んな部分で「この作品はかなり面白い」ことに気付いた。「面白い」のは知っていたが、なぜ「面白い」「一見お気楽な映像なのに、なぜ細部にまで手が行き届いている感があったのか」を僕はほとんど把握していなったのだ。

戦コレでは必ずといっていいくらいに食事のシーンが出てくる。この食事のシーン、そして日常のシーンが戦コレでは重要な位置を占めている。
食事のシーン、日常シーンでキャラの内面描写や環境を説明しているのだ。
つまり普通にストーリーを見ていくだけでキャラの行動動機や生活事情、心理状況が頭に叩き込まれる。
これが物語の展開と相まって絶妙に効果を発揮しているのだ。
試しに卜伝のところまで検証してみる。
「戦コレ」は最新のアニメじゃないけれど、もともとこのブログは最新の話題を追い掛けるブログじゃないし。
しかし、このアニメ、細部フェチの琴線をことごとくくすぐってくれるアニメだ。

  • 第一話。信長EP。

・食事シーン
強盗に入った男の前で稲荷ずしを握り潰すシーンなんかは分かり易い。「お前の金玉を握っている」と宣戦布告している。
コンビニ弁当。信長は現代に紛れ込んだ当初は、コンビニ弁当や舗装されたおにぎり、ハンバーガーに当惑する。
ところが主人公と生活しているうちにコンビニ弁当にも慣れてしまうし、遂には「美味しい」とまで公言する。
ご飯がおいしいのは生活に馴染んだ証拠だ。二人で食べる弁当に信長は美味しい、といい、主人公(?)は楽しかった元カノとの同棲生活を思い出す。

・日常の言動
風呂に入って寝る。信長は一日経過すると、もうこの行動に気持ちよさを覚えている。「食う」「寝る」「風呂」は近代生活の一部だ。俗世に染まったというか、適応能力の高さを示している。
一方で華やかな街より緑の多い公園を好んでもみせる。戦国時代という中世と、文明の発達した近代両方に信長は立っている。

一話で「近代と中世の間に立つ信長」をもってくることで以降の戦コレキャラの外郭を表明している。

日常シーンは他にもある。主人公(?)と一緒にバイクに乗っていると電車に追い越される。「負けるな。追い越せ」と主人公をせき立てるけれど、この時点で主導権は信長にあり、主人公は心奪われている。かつ信長が「負けず嫌い」であるのを物語っている。
このEPは映画「ローマの休日」が元ネタだ。バイクの後ろに乗る信長。
海辺のシーンでコーラの空き瓶をみつけて喜ぶけれど、信長の無邪気さと同時に主人公に「これはやらん」と断わっていることからして信長という戦国武将の独占欲みたいなものがにじみ出ている。

・食事シーン
マネージャーとファミレスで今後のアイドル活動を打ち合わせるシーンがあるけど、早く契約したいマネージャーは食事を切り上げて事務所に向かおうとする。
それに反して「ご飯を全部食べてからでいい?」と問う家康。マネージャーは快諾する。
この時点でマネージャーと家康の関係が決定的になっている。また家康の「途中で絶対に放棄しない」「遅くなっても最後までやり遂げる」という性格描写にもなっている。家康の性格を表現するものとして「鳴かぬのなら鳴くまで待とうホトトギス」の逸話があるけど(アレは本当は後世の人間が捏造したものだ)このシーンで簡潔に表現されている。

・日常の言動
踊りという楽しいものに反射的に反応する家康これだけで家康の性格が分かる。また踊りにとりつかれた家康は踊り仲間のメンバーを求めて街を彷徨する。このシーンも秀逸だ。しかしメンバーを見つけても、知らず知らずのうちに家康はどの踊りでも歌でも必ず目立ってしまう。仲間を求めながらも才能ゆえにハブられてしまう。
アイドルの頂点に昇りつめた後のロザリーとの会話も秀逸だ。

・食事シーン
このEPが一番分かり易い。説明不要だろう。兼続のご飯をおいしいと言い切ってラストには兼続を手元に引き寄せる展開に繋がる。色褪せていた兼続の世界にも色が取り戻される。見ていて恥ずかしくなるくらいだ。多分、「ベルリン天使の歌」か「ジョニーは戦場に行った」「トップをねらえ!」のラストに繋がっている。ご丁寧にも川を挟んで対話する二人の間には橋までかかっている。
また食事シーン、料理のシーンでは兼続との関係も明瞭に描写説明されている。

・日常の言動
普段だらしない謙信。戦国時代では毘の旗を誇らしげに誇示する。現代ではシャワーを浴びた時に脱ぎ散らかした服と同様に毘の旗をバスタオル代わりに使用する。
さらに謙信EPでは一切、暴力行為、剣を使用しない。彼女のEPで頻繁に表れるのは彼女が表紙のグラビア雑誌だ。

  • 第四話。伊達正宗。

・食事シーン
いままでは「必ず誰かと一緒に楽しく食事をしていた」戦コレEPも正宗に限っては小倉小十郎から離れた正宗の孤独と逆境を表現する為にひとりだけ。しかも女囚人という映画「女さそり」山田風太郎「おんな牢秘抄」を連想させる状況において、スープを床にぶちまけられ「犬みたいに這ってすすりな」と蔑称されてしまう。

・日常の言動
ヤクザへの復讐動機が「ヤクザが自分の息子に濡れ衣を被せる仁義なき行為が許せん」という仁義スタイル。此の回は完全にヤクザ映画回
脱獄する囚人たちも看守のズボンを降ろして胴上げの屈辱シーン。「お前の金玉なんぞいつでも潰せる」という信長のいなりEPの延長だ。このアニメは男性が本当に弱い(笑)。
ヤクザへの復讐も「スタイリッシュ成敗!」と殺さずを尊守している。
ここまでで徹底的に小倉小十郎不在の虚無感を煽っているから、信長との対峙も納得出来る。
「片目の殺し屋」って時代劇とかヤクザ映画でありがちなキャラだ。
タランティーノキル・ビルダリル・ハンナに黒眼帯をさせてオマージュを捧げている。

・食事シーン
ディレクターと足利義輝が対談しているシーンがある。二人の間のテーブルにはティーセットがあるけれど、二人は終盤まで絶対にお茶に手をつけない。コミュニケーションの断絶だ。
柳生石舟斎と卜伝がファミレスでお茶を飲むシーンがあるけど、ここで初めてちゃんとした飲む、食べるという描写がある。
またアシスタントを騙す為に自販機からジュースをたかる卜伝だが、これが今まで卜伝を「食い物」にしてきたマスメディアと「喰われてきた」卜伝の関係の逆転描写だ。
完全に卜伝が相手を「呑んでいる」

・日常シーン
散々メディアによって武将の実態が撹乱された。彼女たちは時代の寵児なのか危険人物なのか判断がつかない
石舟斎が卜伝とファミレスでお茶を飲むシーンがある。石舟斎は食品スーパーの帰りで、手にはスーパーの袋を持っている。これだけで彼女達の実態、生活レベルが一発で分かる。

関係ないけれど、このEPはマイケル・ムーアアメリ銃社会問題のドキュメント映画「ボーリング・フォー・コロンバイン」のパロディになっている。インタビュー構成から、三頭身キャラを使っての戦国の歴史、車椅子の少年や、犠牲になった少年の額縁写真を置いて立ち去るシーン等。そのまんまだ。
この後ムーアはブッシュ政権を激しく糾弾する華氏911を発表してドキュメントブームを巻き起こしたけれど、反してドキュメント業界の一部では「編集方法に問題がある。ムーアの主張は正しいが、表裏一体で簡単に善悪構造が裏返る」と指摘の声があがった。
この回はそんな声に対しての解答のひとつになっている。
デブのディレクターは勿論デブのマイケル・ムーアが元ネタだ。もっとも戦コレではサングラスをかけて悪役の味付けがしてある。

こんな次第で「食事」「言動」ひとつとっても戦コレは語れることが山ほどある。一晩とか余裕だ。
このほかにもここに書いた映画ネタ戦国ネタなど、多種多様なネタの宝庫アニメになっている。
「持たざるもの」「持つ者」の組み合わせ。「持つ者」「持つ者」「持たざる者」「持たざる者」の組み合わせ。
それらの複合形態カップリング。その先にあるコンフリクト。あるいは和解
戦コレはほとんど全てのシーンに意味があると断言してもいい。

戦コレの魅力を列挙したけれどこれら全ての要素を包括しているアニメ、漫画がある。小林立の「咲-Saki-だ。
「持つ者」「持たざる者」が熾烈な組み合わせで敵味方区別なく、人間関係、闘牌シーンにからんでくる
日常シーンでも食事のシーンでもキャラの心理描写や環境説明がなされている。
衣が東京のファミレスで昔食べたエビフライをもう一度食べようとするEPは秀逸だ。
モンプチファミリー総動員で昔を再現しようとするし、各メンバーの性格がそのままエビフライ再現への役割をきちんとこなしている。名場面だろう。

ちなみに食事シーンが巧いアニメとしては他に狼と香辛料」「ストライクウィッチーズ」「ガールズ&パンツァー」「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない」宮崎駿の諸作品なんかが挙げられる。
いずれも食事シーンに心理描写や環境描写が含まれている。

コミックではこうの史代この世界の片隅にでは日常シーンと食事のシーンだけで戦時下の広島を描ききっている。
まどマギ」のスピンオフコミック「かずみマギカ」では食事が重要な役割を果たす。
黒田硫黄「茄子」は茄子料理が作品のキモだ。だけどこのコミックスはグルメ漫画じゃない。興味のあるひとは読んでみるといい。「茄子」の映画版は……原作に比べると今一だったのいうのが正直な感想だ。
なにせ原作のEPから一つだけを抜いて一本の映画に仕立ててあげているんだから仕方ないかもしれない。
手塚治虫水木しげる藤子不二雄の「まんが道では食事のシーンは完全に作品に溶け込んでいる。
あの世代は食べ物に飢えていたので人一倍、食事に対するこだわりが強いのだろう。

あーもう、今季のアニメは全部捨てて戦コレだけブログに書こうかなあ。
このアニメの異常な多幸感ってのもなんなんだろうね。キャラ一人一人から滲み出る矜持と、それからキビキビと動く作画、それになりよりもあの瞳の輝きは観てて気持ちいいよね。

この記事を書いてから他のサイトと重複してないかなあと「戦国コレクション」「食事」でググったらこちらのサイトがヒットした。
うわ。書いてあることほとんど同じで、こっちが一年以上も先だ。
DayTimeDreamer様。「戦国コレクション」の雑破業さん脚本に注目してみる

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

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