水木しげる連続体。あるいは広島のハイパーリアル

世間様では『パシフィック・リム』と『風立ちぬ』『艦これ』がものすごい勢いで絶賛話題沸騰中な訳ですが、僕はずっと、刊行が開始された『水木しげる漫画大全集』を買おうかどうか迷っていました。
別に世間に逆行してる俺サマーカッコイイとか全然そういうのじゃなくて、もの凄く逼迫して考えてます。
一期が全33巻らしいので、書店に足を運んでは、
「あ、このサイズで全33巻なのか。金銭面的には毎月の食費と遊楽費を削るとして、二期とか含めると部屋のスペース的にどうなるの?というか二期だけで済むのかよ!漫画家デビューしてから50年以上経ってるるんだぜ!大雑把に計算して1年に二冊のペースで上梓していたと仮定しても百冊超えるだろ!」
そういう脳内シュミレートをしてビクついているのです。
まあ、オタクとか本読みによくある収納スペースの問題ですな。正直、京極夏彦が羨ましくて、殺意すら覚えます。

なんでそんなに『水木しげる漫画大全集』にこだわるかというと、幻想、怪奇、ホラークラスタだからっていうのもあるんですけれど、僕は、
水木しげるは意識下の記憶をくすぐるのがうまい」
と常々思っていたからです。厳密に言うと、
「俺の意識下のノスタルジーな記憶をくすぐるのがうまい」
って感じ。あー、ぜひ手元に置いておきたい。
でも、これ以上部屋に本を置くとはじめちゃんに「ボクと本とどっちが大事なんス? でも水木しげるって可愛いんでそれはなんかいいッス!」って逆に褒められる?

僕は水木しげるは『昭和』の雰囲気を描くのがすごくうまい作家だと確信しています。日本でもトップレベルでしょう。
もう黒澤明とか、塚本晋也とか、滝田ゆうとか、松本零士とか、そのへんのレベルより上です。
このブログ読んでるひとは「ここの管理人っておっさんじゃね?」とカン付いているはず。
でも、少なくとも黒澤明とか滝田ゆうとかの描く「木造住宅の家屋が並ぶ昭和」はみたことはない。
あるのは田舎に旅行に行ったときだけ。
コンクリートバリバリ世代。
んじゃ、なんで僕が「木造住宅の並ぶ家」に郷愁を感じてしまうのかつらつらと考えてみたんですが、記憶の問題ではないかと。
要するに水木しげるとか黒澤とかあのへんは、みんなの記憶にある「多分戦後の昭和ってこんな感じ」みたいなイメージと記号を組みあわせて映像として表現するのが異常に適切なんじゃないかと。
いや、そりゃ、水木しげるが僕の好みの絵柄だからもしれんとは思います。
当時の風景の模写能力も格段に優れているでしょう。
しかしここまで僕の記憶とマッチングするっていうのはもう既にそういう基本的問題を超えたところに到達してるんじゃないでしょうか。こういう言い方は盛り過ぎでしょうか。オカルトでしょうか。
だけど、例えば僕は宮崎駿の『トトロ』は「いい風景だなあ」とは思うけれども「懐かしいなあ」とは思わんのです。
逆に僕が宮崎で「懐かしいなあ」って感じるのは『ラピュタ』とか『ナウシカ』とかあのあたり。
んで、あの世界って実在するの?って言えば違う。あの辺の作品はレトロフューチャーなんでそういえばそうなんですが、それにしたってレトロフューチャー狙おうって考えてそれを実行可能なのはやはり宮崎は「過去」はともかく「異世界」に対してはそういう能力に長けているんじゃないですかね。

水木しげるといえば戦記ものも有名ですけれど、僕は金持ちじゃないし、イケてないオタクなので、舞台のラバウル、ニューブリテンあたりには全然行ったことないです。でも、やっぱりあの南国も懐かしい。松本零士の戦記ものも懐かしい風景です。

塚本晋也の『鉄男』とか『悪夢探偵』とか、完全な創作の世界なのに、滅茶苦茶昭和を感じる。

コレってもう完全に記憶の問題ですよね。知らない世界を懐かしいと思うのは。
水木しげるっていうのは、黒澤明塚本晋也松本零士滝田ゆう、あと、Kashmirなんかに代表される「目にしたことがない懐かしい風景」を描くのがすごく得意です。これは欲しくなってもしようがないよね。

そういえばいまアニメやってる瀬尾公治の『君のいる町』の主人公の故郷、広島の描写も、舞台が田舎ということも手伝って懐かしい。
かみちゅ!』とか。コミックスの『この世界の片隅で』とか。『はだしのゲン』とか。この三作品は本当に昭和の広島ですが。
これは僕の故郷が、まがりなりにも瀬戸内海の末席に位置してたんで、そのへんの記憶と合致するからだと思うんですが。
それでいながら同じ広島の『たまゆら』に僕はあんまりノスタルジーは感じません。『たまゆら』の竹原の美観地区はオシャレだな、とさえ思う。
実際に竹原に訪れた時も親父の田舎とガチに似てるんで第一声が

「い、田舎だ〜。アニメと違って、なんにもね〜」

でしたね。
親父の田舎には、ふうちゃんのアニメプリントが施してあるフェリー、市役所にアニメの『たまゆら』の看板、駅の道にはアイスクリームの売店がないんで、完全に竹原の勝利ですが。あと売り子の女の子が可愛かった。
ふうちゃんのカメラにも昭和は感じません。勉強不足な僕はカメラ詳しくないんで。
ふうちゃん達って、ふうちゃんはパンスト履いてるし、ショタ萌えパティシエ志望のツインテールいるし、気の弱いお嬢様は口笛吹くし、匂いフェチの変態美少女いるし、めちゃ現代な感覚でシコな消費ができる女子高生集団ですよね。
でももっさんとまめぐの歌う『優しさに包まれたなら』と『神様のいたずら』が流れたら一発で、

「うわ〜、なんかコレよく分かんねえけど、懐かしい〜、も〜、しょうがないなあ!ふうちゃんは!シコるのは止めて見守るだけにすっからみんなと仲良くはしゃげよ!」

ってコロリとやられます。そう考えると『たまゆら』ってメディア作品としてはすごい優秀な部類に入る。
これは他の作品にもいえることですが。
僕はずっと広島に昭和を投影して懐かしがっていますけれど、広島全部がそんな土地かというと当然、違いますから。
ともかく。『神様のいたずら』ってジャンルはPOPですけれど、どっか歌謡曲っぽいですよね。
もしくはアコースティックな。
作詞、作曲は昭和POPの王者、大江千里
『優しさに包まれたなら』はいわずもがな。荒井由実の原曲は1974年。
前作でもっさんが歌っていたノスタルジーな『ありがとう』を『あぐれっしぶ』ではまめぐが歌ってたのもこの効果を狙ったのかもしれません。イメージの共有ですね。真相は謎だけど。


映画版『三丁目の夕日』とかあのへん、ノスタルジーは感じません。たぶん、個人的にテーマーパークみたいな昭和がマッチしないからじゃないですかね。
逆に「昭和」時代をリアルタイムに生きていたひとにはあれ、すごい懐かしい風景に見えるんじゃないすか。
ピカピカの建物。排除された工業ノイズ。輝く青い空。変に広い道路。厳しいけれど、最後は優しい大人たち。
昭和にしては洗練された、映像情報の質と量。
あ、これって子供の視点じゃんとか思います。
全てが可能性と希望に溢れていて、世界はどこまでも広く、大人はどこかで自分を守ってくれていると無邪気に信じていた子供時代。
映画版のパート2でゴジラが出てきたのがいい証拠です。
ゴジラって日本少年少女の昭和映画の意匠でしょう。
実際に博物館とか、アーカイブ映像で可能な限り事実に近い昭和みたら、フィルムの状態もあるでしょうが、それでもはっきりいって薄暗いし、汚い。
それこそ、水木しげるとかの世界です。

でも、映画『三丁目の夕日』が好きな人には現実の昭和よりあっちの昭和のほうが価値があると思います。

だからという訳じゃないんだけれど、『たまゆら』の世界ってふうちゃんっていう「(オタク的な造形ではありますが)現代女子高生の視点で観た竹原」なのかなとも。
全てが希望と可能性に溢れた、竹原市という広い世界のできごと。


んじゃ、逆算して未来感とかどうだろうよ、とか考えてみたりも。
アニメの『オレイモ』の千葉とかなんかちょっと未来っぽい。原作は全然そんなことないんだけど。
んで、なんでかなとか考えたら、アレ、ビル群とモノレールが登場するんですよね。アニメは。
ビルにモノレールって未来っぽいイメージがする。少なくとも、学研の教育雑誌とか、「小学○年生」とかには小松崎茂を発祥とした「ずかい!これがみらいとしだ!」みたいな感じでガーンズバック連続体みたいな未来予想図が頻繁に掲載されていますけれど。
大抵みんななにがしかのかたちであの手の刷りこみを受けているはずなんだけど。その記憶の影響かなと。
おもうに、未来予想図ってモノレールが大体登場していたような気がする。もしくはチューブ状の高架走ってる弾丸列車。
最近の未来社会を活写した映画や、今の雑誌でもあんな感じでしょう。デザインは洗練されましたけれど。
根本的には昔の発想がリサイクルされているだけのような。
『レールガン』もモノレール走ってますよね。『フリージング』とかも。この作品って全部OPの画像でモノレール登場するし。あれ?あれはモノレールだっけ?電車?
まあ、とにかく。本当はモノレールなんか逆に風化しはじめている地域もあるはずです。
よくYOUTUBEで新幹線に異常に感激している外国の方がおられますが、あれ、日本人以外が保有している「未来の記憶」だからじゃないですかね。
そのへん、映画監督のリドスコとかは未来っぽい軍隊組織を描くのがうまいよねとか痛感します。
多分、「情報表示画面いっぱい」「ピカピカ光るコンソール」「専門用語バンバン飛び交う現場と指令室」みたいな組み合わせだと思うんですが。
ブラックホーク・ダウン』なんて93年のソマリアなのに、未だに通用する映像だし。

「社会的に優れているから」
「人物の見せ方がうまいから」
「思想がすぐれているから」
「娯楽にとどまらないから」
「はじめちゃんのおっぱいはシコリティ高いから」
「結婚した女性声優のアニソンはカラオケで歌わないようにしているから」

とかそんなんじゃなくて単純に
「ウヒョー!現場と指令室が混乱状態の消耗戦カッケー!」

みたいな。
ロボアニメでこの要素が滅茶必須なのはたぶん、このへんに絡んでるんじゃないかなと。
YOUTUBEで観る『パシフィック・リム』予告とかそんな感じの映像じゃないですか。
あれがオタク層に滅茶苦茶評判いいのは、たぶん、アメリカと日本のコミック、アニメの「未来の記憶」を再現してるからだと思うんですよ。
様式美とかそれを上回るなにかですよね。ディティールの強度の問題になってくる。
ギレルモって『ミミック』とか『ブレイド2』とか『ヘルボーイ』とかモロに日本、アメリカのアニメ、コミックだし。
観てないんでこれ以上、偉そうに言及できませんが。すいません。絶対観ます。

話が戻って昭和。突然ですけど『艦これ』って昭和の意匠じゃないすか。畳みの部屋とか、セリフがいちいち小ネタに走ってるとか言う以前にあれ、軍艦でしょう。あ、これも広島か。呉の「大和ミュージアム」。しかも艦これオンリーも呉。
すげえな広島。
実際にちゃんとやったことないんで言及するのは憚られるのですが。ちゃんとプレイしたらもっと昭和感を感じると予想します。
別にノスタルジーに浸るのが悪いとかそんなことは全然いうつもりないです。
前述したとおり、僕は広島アニメの昭和感に萌えて、『水木しげる漫画大全集』をノスタルジー的な意味合いで購入すべえかと考えているからですよ、はじめちゃん
なにか一周してきましたけれど、そんな訳で、僕は『水木しげる漫画大全集』をどうしたらいいんでしょうか。
(どうでもいいッス!)

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