アメリカ大将/冬の国の戦士

キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー オリジナル モーション ピクチャー サウンドトラック

キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー オリジナル モーション ピクチャー サウンドトラック

キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』を観て来た。正に夢のような映画で心中「これが俺の観たかった『キャプテン・アメリカ』だ!」とずっと叫んでおりました。これも一重に「『WS』とは「マーベルコミックスの『キャプテン・アメリカ』が現代と言う媒介を通して蘇ったらこうなるのでは!というオトコノコの夢をそのまま実現してしまった映画」というこの一点に尽きるのではないかと。

思えば前作までの『キャップ』は古き良きアメリカの正義を体現した映画だった。
『ザ・ファースト・アヴェンジャー』を観ればスタッフや俳優全てが「古き良きアメリカの正義を再現しよう!」という心意気に溢れていた事が良く分かる。悪人を追い掛け街中を爆走するキャップ。逃げられないと悟った悪人は卑怯にも子供を盾に取るばかりか海に放り込んでキャップの足止めを計るのだ! 救おうと海に飛び込み掛けたキャップに子供が叫ぶ。「僕は大丈夫! それよりキャップは悪人を追い掛けて!」
中盤、幼馴染のバッキーとチームを組む事になったキャップ。敵の列車に侵入し激しい銃撃戦を繰り広げる。ところが戦闘の最中、バッキーは走行中の列車から外に放り出されてしまいそうになる。必死に手を伸ばしバッキーを救おうとするキャップ。しかし足手まといにならぬよう、バッキーは自ら手を離し、奈落の底へ。

皆、アメリカの正義の為に全力を尽くして無条件にキャップを援護する。
何故なら彼の名は「キャプテン・アメリカ」。アメリカの国民が認める国家のキャプテンなのだ。
そしてなにより、キャップと共に闘う行為こそ、自分自身がアメリカン・ヒーローになる道なのである。

そして今回の『WS』。現代に蘇ったキャップは現代アメリカが生みだした正義の組織『S.H.I.E.L.D.』と合流し、アメリカの正義の為に再び盾を振りまわす。
ところが『S.H.I.E.L.D.』は合理主義一点張りの正義の組織。仲間を欺いてまで任務を達成しようとするばかりか、なにやらキャップ達の預かり知らぬところで不可解な計画を進行させようとしている。怒り心頭に達したキャップにも上層部は「正義の為だから」「国家の為だから」を主張するばかり。これまでキャップが共闘してきた仲間とはまるで要領が異なる。ネタバレを伏せて後半の展開はここでは書かないけれど、胡散臭い陰謀までが飛び交う。

敵も極めて現代的なテロリスト風味に味付けしてある。ここでいう「テロリスト」とは「己の主義主張を貫き通す為なら手段を選ばない者たち」を指す。街中で銃をブッ放し、所構わず市民を巻き込む。使用する兵器が周囲に及ぼす影響のパラメーターを最大限に調整して爆破の連続。まあ、今までの敵もそんな感じだったのだが、今回はザコレベルまでそんな連中ばかりなのである。

無心に「古き良きアメリカの正義」を貫き通しキャプテンとして振る舞ってきたキャップは現代社会の「悪」と「正義」に大いに戸惑う。

ところでちょいと話が逸れるが、僕はエンドロールを観ていて「あ」と思う事があった。映画撮影協力企業の項目に「Watergate Hotelの名前があるのだ。そして実際にウォーターゲートホテルらしき建物が劇中、映るのである。ウォーターゲートホテル(正確にはウォーターゲート・ビル)とはウォーターゲート事件のシンボル。

ウォーターゲート事件とは1970年代に発生したアメリ政治界の一大スキャンダルである。スパイ組織、CIA、FBI、あらゆるアメリカの機密組織が公に動き、政界の大物の名前が裁判所でばしばし上がった。遂には当時任期中だったニクソン大統領は辞任に追い込まれてしまう。

つまりキャップが国家規模の陰謀に巻き込まれていることを示す為にスタッフはシンボルとしてウォーターゲートホテルを映したのではなかろうか。
事実、制作のケヴィン・ファイギは監督のルッソ兄弟

「70年代の政治スリラーをさらに現代風にアレンジし、親しみやすいスーパーヒーローを描きたい」

と提案している。(『キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー』パンフレットのケヴィン・ファイギのインタビューより抜粋)

さらに今回の映画の目玉である計画は「大型無人殺戮兵器で敵を皆殺しにしようぜ」(冒頭あたりに大型無人殺戮兵器がでてくるのでネタバレじゃない)という常識外れのものである。
どことなくジョン・ブレナン大統領補佐官が打ち出し議論を呼んだ政策「無人機でテロリストを皆殺しにしても合法にしようぜ。国家を守るためにさ!」を臭わせるものがある。議論の中心は殺戮にもあるけれど、ツボはこの兵器が「無人」である所。つまり、操作次第では一般市民を殺す事も可能なのだ。いや、ブレナンが無人機にどういう構想を持って打ち出したのか知りませんよ。アマゾンドローンみたいなやつがガーッと曲がり角から現れて首を締めるやつかも知れんし。
ちなみに『WS』における大型無人殺戮兵器は『アヴェンジャーズ』に登場した巨大空中空母を改造したもの。改造したのは『アイアンマン』のトニー・スターク。こいつ、ホントにキャップと相性悪いよな

テロリストと現実に闘い、手段を選ばない凶悪さと実際に対峙しているキャップ。大型無人殺戮兵器の存在に疑問を感じつつも安易に否定はできない。
困惑するキャップをよそに物語はどしどしダイナミックに進む。

なんだかこう書くともんのすごい映画のように聞えるが、僕が映画の中盤一時間までに感じていた感覚はまさにそれだったのだ。それ故に後半、普通のアメリカアクション映画の展開になってしまうのがものすごく不満に感じられた。
いや、後半の怒涛のアクションは見事の一言に尽き、一本の映画としては極上の出来である。
しかし僕はあんな展開があるとそっち方面にも期待してしまう欲張りさんなのである。

まあ、仕方ないといえばそうなのだが。こうしないと恐らくキャップは展開的に「己の内にある正義の信仰だけを頼りに生きていく男」あたりになりかねないからだろう。こうなると今度はキャップがアメリカと正義の敵になる可能性が生まれる。

そのあたりはスタッフも十分に承知している筈だ。でないとわざわざウォーターゲートホテルらしきものを撮影対象には選らばないと思う。
これは恐らく、スポンサーとか、政治的背景無しに映画を楽しみたいという視聴層に配慮しつつも、可能な限りに行ったスタッフの政府批判と僕のようなポリティカルアクションを求めたファンに対するサービスなのである。
僕は映像からそう汲み取りました。
この辺の折り合いをどう付けるかが、この映画を楽しむポイントのひとつになっているのかもしれないとは思いましたですよ。
もういいじゃん。ルッソ兄弟をはじめ、スタッフはこんだけやってるんだから。

だが、しかし、この映画にはそんな一部の欲張りなボンクラを失望させるような失速を持ちつつも、それを補ってあまりある部分がある。
圧倒的なアクションである。
とにかくこの映画、アクションシーンが異常にスタイリッシュなのだ。僕には『マトリックス』『ジェイソン・ボーンシリーズ』以来の衝撃度でした。編集、カット割、カメラの動き、ワイヤーアクション、体術、全てが見事。リドスコとトニスコ、スピバとポール・グリグラ、クエンティン、ウォシャウスキーをごちゃまぜにしたような70年代から現代までのアクション映画の集大成的存在である。
特にライバル役のアクションはすざまじく、終盤に至っては屠殺場の豚を空気銃で撃ち殺すように、敵味方関係なく華麗なアクションでザクザクと人間をブチ殺していく姿は痛快ですらある。こうなると観ている方は時折挿入される不殺アクションで敵をなぎ倒していくキャップのスタイリッシュ盾さばき両方に圧倒されて、頭が空白の状態に陥り、ひたすら展開されるアクションに魅入るばかり。
上映後、帰宅中の車内でようやく「よく考えたら結構な数の人間が死んでいる映画だ!」と思いだすに至る始末。


ところで帰宅しパンフを読んでみてなによりも目を惹くのはスタッフ、キャスト共に口を揃えて「マーベルコミックスがー」「キャプテン・アメリカがー」を連呼している事である。そういう編集方針だったのかもしれんけど、ここまで徹底的にリスペクトしているのも逆に面白い。特にファルコン役のアンソニー・マッキーのはしゃぎっぷりは微笑ましく、アフリカン・アメリカンの役に指名された事実に完全に浮ついている。マッキーのコメントだけでもパンフはかなり楽しく読める。いっそのこと、全部マッキーに喋らせた記事構成にしてみたらどうか。

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