『わんおふ -oneoff-』山百合の心は不安定

アニメ

わんおふ -one off-第1巻 [Blu-ray]

わんおふ -one off-第1巻 [Blu-ray]

「高級メロン抱えながら「わたし飢えてるんです」って言ってるみたいに聞えるのよね」−『かんなぎ
佐藤順一監督の「わんおふ-oneoff-」を先行で観た。基本はよかったという印象だけど、シナリオの筆が滑ったかなとも思った。

「わんおふ」は長野の山村で暮らしている高校生、汐崎春乃が主人公。
春乃は退屈で停滞している田舎とそのなかで身動きが取れない自分にうんざりしていた。
ところがある日、彼女の両親が経営するペンションに世界をバイクで旅してまわるシンシア・B・ロジャースが住込み従業員として訪れる。
屈託のないシンシアは、春乃や友人たちに世界各地で出会った出来事を語って聞かせる。汐崎は自分の住んでいる世界とのギャップに驚きつつも羨望の念を隠せない。
だが、シンシアの行動に振り回されている内に春乃の心理にも徐々に変化が訪れる。
「わんおふ」は少女の心の変化を「たまゆら」同様、情緒豊かに描く。

ところで「シティ・オブ・ゴッド」という映画がある。2002年にブラジルで制作されたこの作品はリオデジャネイロのスラムに住むストリートチルドレンの壮絶かつ悲惨な生き様をスタイリッシュな映像で捉え大好評を博した。テレビドラマにもなり、2008年には二度目の映画化も果たした。日本でも大好評を得ている。
ところがこの作品、一部の誠実な映画ファンから嫌悪の目で見られた。当然だ。壮絶かつ悲惨なストリートチルドレンの生き様を描くのにどうしてスタイリッシュな映像なんだ?
ファッショナブルな映像で撮られておきながら悲劇を描く? 神経を疑う。僕もそう思った。

「わんおふ」も同様だ。主人公は自分の境遇と環境に不満を持っている。しかし友人は沢山いるし、お茶を飲んでダベるいい感じの喫茶店もある。日常は楽しく描かれている。

確かに主人公は頻繁に鬱屈した表情を見せる。だけどこんな情緒たっぷりに描かれた背景の前で不満顔をされても困る。
唯一、主人公の停滞した心象風景を具体的に描いた映像が連続する赤信号として登場するものの、ほんのわずかしかない。

佐藤監督(あるいはその周辺の人間)は「たまゆら」で成功した佐藤テーマパークをもう一度再現したかったのかもしれない。
たまゆら」は成功を収めた。そこで描かれる広島は海と山に囲まれ、仲間と家族、想い出に恵まれたヒロインの伸び伸びとした心理をよく捉えている。
しかし今回は鬱屈しているヒロインだ。テーマパーク「長野県飯田市」で友達と遊びながら不貞腐れられても観ている僕は釈然としない。

成長する過程を描きたかった。鬱屈としながらも希望の光を忘れないヒロインを描きたい。あなたが嫌いな世界は視線を変えるだけでこんなにも姿が変わる。
一話と二話を最後まで見ればその意図は痛いほどに伝わってくる。
だけど風景はいつも同じで美しく輝き、分け隔てなく誰にでも光を照らす。そこに影は一切存在しない。

前回に引き続いてあんまりネガティブなことばかり書いていたらこっちも気が滅入るので「わんおふ」の感想を書く。
オマエはここまで書いてこの作品が嫌いか、と聞かれたら好きだと答えるだろう。心象風景という問題点を除けば物語は成功しているからだ。
特に「たまゆら」にハマった人にはたまらない作品になるはずだ。分かり易い人間関係と視聴者の心にエコなキャラクター。
春乃の憂鬱も実は独善的なひとりよがりな訳で、それを外の世界からやって来たヒロイン、シンシアに穏やかに気付かされていく過程は正統派な百合恋愛物語だ。シンシアが姉で春乃が妹というポジション。
このあたりは「たまゆら」の志保美りほが、沢渡楓の精神的な姉でありながらいまいちその役目を果たしていなかった部分を解消している。
山間部ということでバイクが物語の鍵にも、基本設定にもなっている。田舎に住んでると車かバイクがないと生活できないからだ。
春乃の「変化」もバイクが触媒になっているのでこのあたりは要領よくこなしている。
ちなみに僕の実家の高校には伝説があって、高校を卒業するまでに車の免許を取得しないと死ぬ、という言い伝えがある。
死ぬ思いで自転車通学をしている友人を、原チャリで颯爽と追いぬいて行く春乃を観てそんなことを思い出した。

Cotton (バーズコミックス ガールズコレクション)

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