『さんかれあ』をホラー映画に変えたヤツは誰だ!

映画アニメコミックさんかれあ感想

さんかれあ(1) (講談社コミックス)

さんかれあ(1) (講談社コミックス)

いや、前回のココロコネクトの考察は誤字脱字が酷かった。文章も支離滅裂でよく分からない。「阿知賀」の項目以来だ。でも舌の根も乾かぬうちにアニメさんかれあだ。

アニメさんかれあがCSでも開始されたのでボチボチ鑑賞をはじめた。
ところが一話冒頭から襟首を掴まれ引き寄せられたような気分になった。
アニメさんかれあは実にホラー映画テイストな画面コントロールが施されていて、ホラー映画、小説、幻想映画、小説好きの僕のハートをバキューンと狙い打ちしてきたからだ。

アニメを映像面からも考察するサイトも、象徴的な画面構成をしきりにとりあげている。
ただし、ホラー映画の側面から考察したサイトはいまのところ発見できてないない。

以下、アニメ考察サイトの主要な映像考察を大雑把に挙げるとこうなる。

  • ロングショットが多い
  • 対照的な構図が多い
  • シンボリックな画面が多い

・シンボリックな画面が多い
については一話の月と井戸の対比や、常に昏い画面構造などが挙げられる。考察サイトで一番取り上げられているのはこれだ。
これはホラー映画、小説に限らず芸術一般に頻繁に取られる手法で、アニメさんかれあの一話の月にしろ神秘の象徴だし、千紘が廃墟で飲んでいたアセロラドリンクも礼弥の赤いドレスも血の象徴だ。廃墟のボーリング場は「退屈、窮屈な場所の日常の飽和」をあらわす。なにもない田舎でもボーリング場だけは電車か自転車でちょっと移動すれば必ず存在しているからだ。
そのボーリング場の模様である、EDにも現れる特徴的な丸印は陰陽をあらわす。
陰陽は文字通り東洋思想における対照と融和のシンボルであり、生と死のシンボルでもある。暗いとか明るいとか。
作品自体のシンボルであり、礼耶の髪飾りでもあるあじさいについては、その下に死体が埋まっていると地面のPH濃度が変化し、花の色が変化するという理由から死体隠し場所の定番になっている。ヘンリー・スレッサーの短編「花を愛でる警官」が有名だ。
坂口安吾桜の森の満開の下と同じだ。

ちなみに僕がいちいち「アニメさんかれあ」と表記している理由は後述する。

昏い画面構図も雰囲気を大事に扱うホラー映画では頻繁にとられる手法だ。古くて画質の悪いZ級ホラー映画を観ているとなにが起こっているのかよく分からない場面があるのは撮影がヘタクソなのと、画質の悪さ、低予算でいい撮影班が雇えなかったことによる(名作や資金のかかった大作は別だ)。雰囲気作りに昏い画面を撮ろうとして失敗しているのが原因だ。
ホラー映画では昏い画面はそれくらい基本になっている。
ロメロのゾンビシリーズ「REC」「REC2」(「3」はまだ観ていない)のような傑作ホラーを観れば暗闇がいかに不気味で光がどんなにありがたい存在か画面越しに再確認できる。

・対照的画面
はホラーに限らず映画のオハコだ。近代古典映画では(特にゴダールとかベルトリッチ、パゾリーニ、ヌーヴェルバーグが流行ったフランスあたり)分かり易く表現されている。最近までこういうことを露骨に、無邪気にやっていたのは鬼籍したキューブリックだ。
キューブリック「シャイニング」でもそれは存分に発揮されて双子の登場シーンやホテルの全貌、床の模様や部屋の構図などいたるところに見てとれる。
ワイズの「たたり」やレネの幻想譚去年マリエンバートででは幾何学模様が溢れている。

ロングショットが多いも映画の手法で、虚ろな心理状況や間延びした画面、人間関係を表現するのにも適している。
空間が広くとれるので画面に余裕が出来る。観客は圧迫感を感じないで済むばかりか、場合によっては、特にホラー映画では寒々しい印象も受ける。このサイトの「映画 けいおん!」 世界侵略 ロンドン決戦!でも触れた項目だ。背景に多く画面構図を割ける。

アニメさんかれあではロングショットも多いが、真横から見た図が圧倒的に多い。登場人物二人が左右に配置されて、そこを真横から撮る構図だ。さんかれはこの対照構図が非常に多く、ロングショットも複合される。
これは血の祝祭日「悪魔のかつら屋」などを撮ったスプラッター映画の始祖、H・G・ルイスが異常に愛好した構図でもある。
ただし、ルイスの場合は事情がパゾリーニポール・ハギスのように深刻ではなく、単に彼が一攫千金を狙って経営者から監督に鞍替えしただけのド素人で、しかも超低予算でガンガン映画を撮っていたことによる。ルイスの作品は全て彼がカメラマンも兼任している。
この低予算の真横撮りという低予算でバカでも撮れる構図は、超低予算ホラー映画の中で延々と受け継がれ、2000年代の今でも大ヒットした弩級の低予算ホラーパラノーマル・アクティビティで存分に楽しめる。
パラノーマル・アクティビティは登場人物二人が部屋の中でウロウロしたり口論したりするだけの映画だ。
そこへゴシック小説やパルプホラー、フーパーのポルターガイスト「ヘルハウス」で存分に駆使された大きな物音やうめき声、ポルターガイストが挿入される。
これらが誰かスタッフの手によってアニメさんかれあでアニメの表現方法と融合された、という経緯をとっているじゃないだろうか。

とにかくこれだけホラーテイストな画面だ。列挙するとキリがない。僕は早速原作を購入した。CSの放送を待っていられなくなったのだ。
オレのホラーコレクションにも加えねば。

ところがはっとりみつるの原作さんかれあは見事なまでにラブコメだった。大筋はアニメとそう変わらない。というかアニメが忠実に原作を再現している。でも月にしろ、アセロラにしろ、ボーリング場の丸印にしろ、そういうシンボリックなシーンはほとんど皆無で、画面はキャラのエロ可愛さを強調する為にバストアップの構図が半数以上を占めている。
無論、室内で礼耶と千紘が会話するシーンが多いから対照構図は自然と生まれるが、アニメみたいに露骨にムードを選びまくってたっぷりタメて使っている訳じゃない。
はっとりみつる先生には悪いけれど、ホラーとしての画面コントロールは明らかにアニメが上だ(そのかわり原作はテンポが異常にいいし、素早くシンボルが呈示されるのでラブコメの視点でみると一級の部類に属する)。

つまりアニメさんかれあの映像はいい感じにホラーテイストに変更されているのだ。
アニメスタッフのなかに原作さんかれあを変更した奴がいる。しかもそいつはかなりのホラー映画オタクだ。
上記したように映像技術とは過去の蓄積による。過去にホラー作品に絡んでいる奴がその経験でもってアニメさんかれあを改変した可能性が高い。しかもマニアを狙い打ちにするくらいに高度な経験、技術度が発達したやつだ。

ここで自分の為の参考としてアニメさんかれあの映像、演出に拘わった主要なスタッフと彼らが関係した作品をざっと挙げる。
補足しておくと、列挙した作品名はホラーテイスト、幻想テイストを含んだ作品だけに絞ってある。

監督ー畠山守
プロップデザインー小坂久太
総作画監督坂井久太・日向正樹
プロップ作画監督ー岡戸知凱
美術監督ー栫ヒロツグ
シリーズ構成ー高木登

こんなアニメな非モテサイトに来る奴は僕と同じ非リアのアニオタだろうから説明する必要はないだろうが、畠山守監督とは小俣真一の別名義だ。幻想的、ホラーテイストな作品で拘わったものはまどマギ」「電波女」

プロップデザインの小坂久太「魔法使いTai!」「ブギーポップ」「サクラ大戦」「カドキャさくら」「闇の末裔」「Xメン」「LASTEXILE」「プリンセスチュチュ」「ヤミと帽子」「ひぐらし」「屍鬼」「ざくろ

日向正樹はBLOOD+」「GANTZ」「ARMS」「ウィッチブレイド」「トリニティ・ブラッド」「アルジュナ」「蟲師」「高橋留美子劇場」「デビルメイクライ」「ヘルシング

岡戸知凱は謎が多い。検索してもひっかからない。別名義の可能性が高い。

栫ヒロツグは新人なのか、別名義なのか不明だ。拘わった作品が少ないからだ。ただしさんかれあに拘わった後、京騒戯画美術監督として関係している。

決定的なのはシリーズ構成の高木登だ。
アニメ地獄少女シリーズ」「夏目友人帳シリーズ」「屍鬼。さらに実写の「ほんとにあった怖い話」「怪談百物語」「ウルトラQ平成版」「ウルトラマックス」にも絡んでいる。

実写に関連しているというのは大きい。重ねて書くが実写映画とはアニメと比べて歴史と幅が半端じゃなく大きい上に映像の蓄積、反映度も桁が違う。彼が映画の技術をアニメさんかれあに持ち込んだ可能性が高い。

アニメフタッフのY本によるとアニメさんかれあの一話、二話のオリジナル部分も高木が作成したものらしい。
主要な話には高木が必ず脚本としても参加している。アニメさんかれあのホラーの正体は多分こいつだ。

列挙していない他のスタッフもざっと調べるとなんだかひぐらし地獄少女のスタッフが多かった。
どちらの作品もホラー映画の技術を大幅に持ちこんでいるし、オマージュも多い。元ネタを知っていないと出来ない芸当が多数見受けられる。
まどマギも実験的な映像手法で論議を呼んでいる。

結果としては高木の功績も大きいがスタッフ自体がホラー傾向の強い者ばかりを集めたと言える。

ここまで来るとこのスタッフを集めたプロデューサーである山口泰広、高取昌史、立石謙介、櫻井優香、浦城義明、浦崎宣光も噛んでいるのだが、ここは割愛してもいいだろう。
無論、原作さんかれあの性質を知って「こういうアニメにしよう」と大雑把な方針でスタッフ集めをした以上、プロデューサーはスタッフの過去を知っていないといけないのだけれど。でも作品の画面には直接影響しない。

ざっと調べただけでもアニメさんかれあにはホラー作品の関係者が多いことが分かった。狙い撃ちされる訳だ。

え?僕のアニメさんかれあの感想ですか?冒頭でベタ褒めしたのに他になにもないんだけど。
原作もアニメも礼耶ちゃんのいやらしいおっぱいが角度によってサイズが違うっていうのは、これは共通のデフォルトなんですか?

そういえばゾンビものをはじめとするB級ホラー映画には、おっぱいの大きい白人の女の子が犠牲になるパターンが多い。
もっともあっちはフットボール選手のマッチョな男がおっぱいの大きい白人のチアの女の子とキャンピングカーの中でバンバンやってる最中に殺されちゃうんだけど。
ちなみにスポーツ選手もマッチョもチア(チアリーダー)アメリカ映画ではリア充の比喩として扱われる。
対して礼耶は聞分けがいい肌の白い(白人)お嬢様だ。千紘はホラー映画好きのオタクだ。礼耶と千紘のようなキャラはホラー映画では最後まで生き残るタイプだ。
電気工とか掃除婦、占い師といった黒人、ユダヤ、アジア系、先住民の爺さんや婆さんが忠告を施すがスポーツ選手やチアは頭がカラッポなので取り合わない。
一方、聞分けのいい礼耶のようなお嬢様と、彼女に密かに憧れるオタク(アメリカ映画では千紘のようなパーカーを着ている奴はオタクの比喩だ)は最後まで生き残る、というのがB級ホラー映画のパターンだ。