ジジイ監督萌え。実力若手監督萌え。『ガールズ&パンツァー』
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僕の言うジジイ監督とは宮崎駿、押井守、出崎統、映画だとリドリー・スコット、S・スピルバーグ、D・フィンチャーあたりだ。
長い下積み、職人時代を経た挙句、いい感じに熟成して圧倒的な技術力でもって自分の好きなものしか撮らなくなった監督たち。
なので彼らがこれまでの経緯から微妙に逸脱した新作を発表する度に生真面目なアニメファン、映画ファンは戸惑う。
「彼らはどこに行こうとしているんだろう?」
彼らはフルチンで観客の前を走ることが、とても気持ちのいいことだと悟っただけに過ぎない。
実力若手監督とは小野学、水島務、新房昭之、神戸洋行、映画だとエドガー・ライト、ポール・グリーングラスあたり。
下積み時代を重ね、職人気質な作品を制作しながらも原作付きの作品を傑作としてアニメ化、映画化させる実力を持っている監督たち。エドライはちょっと違うか。
下積みが長かった小野学は「咲」という一部のコアなファンしか知らない原作のアニメ化を引き受けた。自身が熱心な打ち手だった彼は「咲」が萌えと百合の下に隠し持っている麻雀漫画特有のバイオレンス性と、麻雀漫画を解体する能力を即座に見抜いた。
彼は全編にわたって萌え百合の通奏低音を奏でながら格闘アニメテイストを繰り広げる。原作が麻雀漫画と通常漫画を正直に解体してしまう故に逆に一部の麻雀漫画ファンにバカにされてしまう部分をなるべく抑え込んだ。小野は原作の解体能力を尊重する一方、闘牌シーンではフィクション特有の嘘で戦闘意欲を煽る映像を繰り広げ、視聴者を興奮の坩堝に叩きこんだ。小野学の活躍は「咲」にとどまらないが、そのへんのことは他のえらいサイト様に任せます。
新房も「月詠」「ぱにぽに」や西尾維新の原作、「絶望先生」といった原作がもつ異常なテンションと毒を独自のデコレート感覚で甘く先鋭化させ、大ヒットに導いた。彼も作品を解体する力を持っているので時には「これフィクションです。バカでしょう」と作中で何度も公言する。一方で小野学同様、作品の為の嘘つきにもなれる器用さも持ち合わせている。
「まどマギ」では脚本の虚淵と共謀して少女達の心理とQBさんの意見を巧みに使い分けた。
神戸洋行も下積みを経過後、自由でリリカルな作風で「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」監督「ストパン」演出を手掛ける。「オレイモ」ではフィクションの嘘をついて徹底的にオタクの擁護にまわった。「ストパン」OP、劇場版では解体能力を発揮し、美少女戦争モノのバカらしさと激しさ両方を演出した。
水島務も作品解体能力と嘘をつく器用さを持っている。下積みを経て「×××HOLIC」「おおきく振りかぶって」等のもともと高いポテンシャルを持っていた原作付きをヒットに導く。
だから水島は「負け組」をヒットさせる力も持っている。
イカちゃんがあれほどヒットしたのは水島の実力だ。と言うと怒るファンがいるかもしれないが、古くからイカちゃんの事情を目にしてきた者ならアニメ化前のイカちゃんがどれほど惨憺たる状況だったか知っている筈だ。
古本屋でイカちゃん原作の価格がいきなり高騰してファンを戸惑わせたのも、アニメというバイアスがかかって原作が面白くなってしまったのも水島の功績抜きには語れない。
「じょしらく」という落語ジャンルを再起させたのも水島だ。「じょしらく」以前に「落語天女おゆい」が色んな要素を詰め込みすぎたために大コケした。
この作品が商業的に失敗し「落語業界物」はアニメファンの間でなんとなく禁忌的な雰囲気になってしまった。
そんななか、派手に宣伝されることなくどちらかというとコアなファンに応えるように連載されつつも、どこか奇天烈な能力を隠し持っていた「じょしらく」は(当時の)AKBメンバーがキャラCDの声を担当したりしたが、なんとなくスルーされてきた。
2012年のアニメ化で水島が表舞台にひっぱりあげた印象が残る。
「じょしらく」がヒットしたのは作品解体能力を発揮したためだ。イカちゃんではアニメファンの為に嘘つきになった。
そんな水島が今季手がけるのが「ガールズ&パンツァー」だ。
話が逸れるがネットでは「ガルパン」を「ストパン」と比較するファンが多い。同じミリタリものなので仕方ないのだろう。
しかし「ガルパン」と「ストパン」は特に「ストパン」ファンのなかでは意識下の出身地が一緒だ。
2004年のワンダーフェスティバルを発火点として島田フミカネがコナミと展開したプロジェクト「メカ娘」
が該当する。
公式ページにもあるように「メカ娘」はこれ以降「ストパン」「スカイガールズ」と発展していく。
でもキャラを眺めれば納得すると思うが、「メカ娘」はミリタリ全般を擬人化するプロジェクトだった。戦車の女の子も存在したのだ。
このラインナップのなかで「戦闘機」という原作の面白い部分だけを抽出したゆえに「ストパン」と「スカガ」はヒットしたと言っても過言じゃないだろう。
ストパンクラスタが「ガルパン」を危惧して頻繁にもちだす「ストパンはパンツというアイデアが秀逸だった」というのは的確な指摘だ。
しかしストパンが面白い理由の決定打にはなりにくいと思っている。
スカガではパンツではなく水着を模したウェットスーツだ。宮藤はスク水だけど。スースーします!
戦闘機というジャンルは映画史を眺めてみても貴重な存在だ。
空を飛ぶという人類の夢を戦闘マシンで叶えてしまった姿は人々を魅了した。
戦闘機が空中戦を繰り広げ、敵施設や敵機を撃ち落とす姿に人々は無条件に感動する。
不謹慎だとは思いつつ、未来の理想像を効率のいい大量殺戮マシンで再現した姿に惹かれる。
それは原爆のキノコ雲の映像から目が離せないのととても似ている。
書籍で一般受けするのも戦車より戦闘機だ。コアな戦車ファン向けの書籍は単行本止まりで文庫にはなりにくい。
マンガでも貸し本時代から少年少女を熱狂させるのに最適なのは戦闘機だ。
水木しげるは戦闘機少年ものでヒットを飛ばした。
以降、手塚治虫も松本零士もみんな戦闘機を描いた。戦車モノがなかったとは断言しないが、その数で戦闘機は戦車を圧倒する。
戦車はタミヤのプラモデルなどでコアなミリタリファンに密かに愛され続けると同時に、ライトな層に受けがいいのは俄然戦闘機なのは否めない。
「ストパン」を観ていて気持ちがいいのは戦闘機だからだと僕は思っている。
この思考、「ガルパン」を「「メカ」×「少女」」という系譜で捉えた場合、余った材料という扱いになる。「ガルパン」をメカ娘と関連付けるのは乱暴ではある。しかし「ガルパン」を評価する際、ストパンクラスタが無意識に「ストパン」に反応してしまうのには過去が存在するからだ。てか僕がそうだ。
でも戦車は熱心なミリタリファンが何度も手掛けてきた題材だ。
宮崎駿の映画「ナウシカ」のラストでクシャナが足としたのはガンシップではなく戦車だった。
庵野の「エヴァ」でも戦車が度々支援活動を行う。一話冒頭でシトを迎え撃ったのは戦車だった。
押井の「劇場パト2」「OVAパト」で東京を戦中に叩きこむイメージに先行されたのはなによりも戦車だった。
金子と樋口の映画「ガメラ2」ではわざわざ戦車を撮る為に、自衛隊敷地内にファミレスのセットが組まれた。日本では戦車は公道を走れない。
水島務は今季、地味で受けが悪く、さらに「ストパン」の残滓的存在を描く。
イカちゃんや「じょしらく」と同じパターンだ。
どう転ぶかは分からない。
でも今季アニメのなかで僕は「ガルパン」に期待している。潜在能力が高い戦車と、やはり潜在能力が高く器用な水島務という明らかに面白い組み合わせにわくわくしている。
ところでジジイ監督萌えの話が残っている。ジジイ監督は皆、かつては原作付きをヒットに導いた経歴を持つ。フィンチャーのエイリアンはひどかったけど。
逆説的に推測すると現在の若手実力監督がジジイ監督になる可能性が高い。
小野学や新房、水島なんかがいい具合に発酵して好きなように撮ったアニメ作品ってかなり観たい。
(追記。この記事を書きはじめたのは放送直前だった。記事の補強に「ストパンクラスタがパンツというアイデアが秀逸と主張する」部分にリンク作ろうと思って「ストパン」+「ガルパン」で検索したら、異常にガルパン支持が増えている。放送後はパンツに頼るなって主張があるくらいだ。放送前は「パンツアイデア秀逸」って意見が圧倒的だったのに。褒めてんだか、寝返ってるんだかどっちですか。スースーします!)
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