ネオリョナゴシック『フリージング ヴァイブレーション』

フリージング 1 (ヴァルキリーコミックス)

フリージング 1 (ヴァルキリーコミックス)

「フリージング」第二期の「ヴァイブレーション」がはじまってしまった以上、フリージンガー、あるいはフリージアンを名乗るフリージングファンとしては応援しない訳にはいかないじゃないですか。

で、「フリージング」の魅力ってユルさだと思う。「フリージング」に横溢する先制攻撃感溢れるユルさ。
「フリージング」はあらゆるものがユルい。それがなんというか、作品全体の魅力というか、フリージアンにとっては堪らないんだよね。
もうこれは計算してやってる気がする。そう思わざるを得ない。

まず設定がユルい。基本、近未来SFで軍事複合企業の育成学校の話なんだけど、全然厳しくない。
厳しいのはスクールカーストばっかりで。
軍事複合企業の育成学校だったら教官がみっちりついてて、それこそデキるやつからダメなやつまで徹底的にシゴくみたいな感じにしないといけないのにやってることは普通の高校と変わんない。で、それがジョックスのヤッたヤラない話みたいな「部屋入り」だの、してないだのってもう、寮生活の体育会系校じゃん。
しかもあれ、しょっちゅう内輪もめやってるよね。
それが生死に繋がっているっていうのはもう「生死」すらもユルいんですよ。この作品は。

wikiで設定読んでて感心したんですよね。

フリージング能力の説明項目がこう。

ノヴァやリミッターの持つ能力。イレインバーセット状態になったリミッターが周囲のノヴァ、人間(パンドラ、リミッター)の行動を制限する領域を展開、対象に照射することにより、拘束する。または相手のフリージングに対し、リミッターはフリージングを逆にぶつけて破壊することにより、限定的な空間ながらも制限領域を中和し、味方の行動を可能とする。通常、中和は対のパンドラのみ、拘束は1 - 2名、多くても3名までが限界領域である。

ものすごい単語が並んでるんですけれど、この羅列もユルい。
僕の貧しい読解力にもよるんですけれどいまいちなにを言っているのかよく分からないじゃないですか。
書き方が悪いんじゃなくて、よく分からない単語がいっぱいあるっていうのがポイントなんですよ。
たぶん、これは誰が書いてもこの単語を並べた以上、ユルくなる。
ノヴァってラテン語で「新しい」ですよ。リミッターは英語の「LIMITER」
この二つがセットになって新しい意味を持とうとしてる時点で意味自体が喪失してひたすらユルさに繋がっていく。
「女子中学生」ゴダールを並列に並べるのとおなじくらいユルい。
「フリージング」は極端な単語を並列に扱って感情論で相手の足元をグダグダにしてから止めを刺すアジ演説みたいなユルさに似ている。
ビジュアルもしかり。一期でも紐みたいな水着着るとか、分厚い戦闘服のゴスロリファッションなのに、なんで胸元だけ開いているのか。しかもスカートはプリ―ツきっちりついてて、タイツちゃんと履いてるし。
なんで戦闘で露出するのがおっぱいなんだ。「戦闘」「おっぱい」を並べるユルさ。

深夜の通販番組で、家庭用ストレッチマシンの使い方をレオタード姿のお姉ちゃんに元海軍特殊部隊が指導しているようなユルさと同種ですよ。

僕は「フリージング」を貶めようとしてるんじゃなくて、この作品はユルさが魅力なんですよ。
深刻になろうとして、でも、どこまでいっても深刻にならない描写。だってファンの間ですら、残酷描写はリョナ描写として「なんだかいいなあ」ってことになってるでしょう。アニメにおける本当の残酷描写っていうのは「まどマギ」のマミさん死亡シーンみたいなことを指すんですよ。で、あれすらギャグになるんです。「行き過ぎた残酷さは逆に笑える」っていう格好のサンプルだけど「フリージング」ってあれの弱めのやつを毎週やってる。それはユルさになる。


「フリージング」のエロって限りなくオヤジ向けのエロ。しかもリョナ
そもそも男性向けエロオタ文化自体が外部から見れば大人になれないオヤジ向けのエロ。まあ、エロ文化自体が限りなくそういうものですが
それだからこそ、一般人から見れば、眉をしかめるか、あるいはお笑いの材料にしかならない訳で、その「先制攻撃的に笑わせてしまう」ユルいエロが戦闘シーンや残酷シーンで血塗れになるごとにリアルにポロっとこぼれてくる。
多分、このユルさに抵抗を覚えてしまう「多少なりとも真面目なオタク」が「フリージング」に不快感を覚えるんだと思う。
「フリージング」に漂うリョナ(暴力)エロの「不謹慎」が気持ち悪いっていうか、厳密にいうと許せないというか。
「不謹慎」っていうのは精神や思考、倫理感の弛緩が引き起こすものです。これも結局ユルさです。
「ヴァイブレーション」一話でもオスプレイっぽい機体(管制塔と操縦士はオスプレイって言っちゃってるけど)から降下したサテライザー先輩のパンスト越しのパンモロ全開
なんで防寒着羽織ってるのにおっぱいだけ露出してるんだ。
世界最強の五人が揃っているシュチュエーションで、どうしておっぱい揉んで喘いでいるんだ。それを見てなんでサテライザー先輩はちょっと上気してるの?
突っ込んだら負けというよりは、どちらかというとそのポイントに言及しちゃいけないお約束なのはそういう「フィクションの先制攻撃」を「フリージング」がガンガンやってくるからです。

まあ、テレビや雑誌っていう大衆娯楽メディアで露骨なリョナ、ポルノをダダ流すっていうのもどうかとは思いますけれどね。
楽しみにしている一方で。これ全然知らないひとが見たら不愉快だろうなとは思います。
それだからこその「深夜アニメ」「コミックヴァルキリー連載」なんでしょうが。

ともかく。そもそもあの制服はなんなのか。少なくとも戦闘用ではない。なんでゴスロリなんだ。
日本やアメリカ、ヨーロッパにおけるオタ文化ではゴスって汎用性高いけど、女性キャラに与えられたゴスっていうのはカッコイイというよりは可愛く見せるためにああいうファッションになっている。
要は可愛いはユルいですから。
かっこいいゴスっていうのは注意して観察すると、必ずどこかに軍服のファッションセンスがあるんで、厳密にゴス単体はカッコイイとは言えない。
んで、可愛いはユルいっていうのは動物のDVDとかその極致で、限りなくユルい。あのユルさがいい。
絵本もユルいですよね。牧歌的なゆるキャラが他愛のないことで悩んだりする。
で、サテライザー先輩がその「動物DVDのナレーションで大活躍」の能登麻美子っていうのは適役です。
ゲオルグ・ハレンスレーベンとアン・グットマン夫妻作の絵本『ペネロペ』のアニメ版でナレーションやってる能登さんですよ。
サテライザー先輩のユル可愛いさ、どこまでいっても深刻になれない隙、っていうのは能登さんの資質と演技もあると思います。


で、考えたんだけれど、近未来の物語なんだから「ネオ」な物語でしょう。で「リョナ」で「ゴシック趣味」あわせて『フリージング』のジャンルは「ネオリョナゴシック」でどうか。ネオとかリョナとかゴシックってもともとユルい語感だし。

という訳で第二期『フリージング ヴァイブレーション』(この『ヴァイブレーション』っていうのも卑猥なものしか連想できないというか、させないよなあ)。
フリージアン星人としては断然応援しなければいけないと思うのですよ!作品の決着?原作が延々やってて終わらないんだから、テレビシリーズもずっとやって行きましょうよ。
まあ、そういう意味では二期っていうのは「ずっとやってて欲しいな」っていう願望が少しでも叶った訳で、やっぱり応援しないといかんのですよ!

ねにもつタイプ (ちくま文庫)

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