『たまゆら』『かみちゅ!』の瀬戸内海と『ゲゲゲ』の日本海の違い。

聖地巡礼たまゆらかみちゅ!水木しげるアニメコミック

たまゆら 第1巻 (OVA) [Blu-ray]

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かみちゅ! Blu-ray BOX

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夏休みを利用して聖地巡礼旅行に行ってきた。
広島はアニメ『たまゆら』の聖地「竹原」。『かみちゅ!』の聖地「尾道」。
鳥取も行って来た。『ゲゲゲの鬼太郎』の聖地ではないが水木しげるの生誕地として自伝に頻繁に登場する境港だ。水木しげるロード水木しげる記念館がある。
両方に足をのばして圧倒的な違いにちょっと気圧されたというか、なんともいえないものを感じたので記しておく。
ホントは『ココロコネクト』の考察、感想の筈だったのだけど。
それくらい両者の溝は深かった。

なお、ここはアニメファンのブログなので、広島は大林宣彦監督の「尾道三部作」の聖地ではなく「かみちゅ!」「たまゆら」の聖地として扱う。
感想も、地元の事情を把握していない、よそ者のオタクなアニメファンによる独善的な視点によるものだという事も事前に断わっておきます。

                       ・『たまゆら』竹原 

たまゆら」の竹原だけど、日曜に赴いたにも拘わらず地元の人間しかいなかった。当然だ。「たまゆら」はOVA販売とテレビシリーズも1クールしか放映されず、しかも深夜アニメなので熱心の上に「コア」という形容詞が付くアニメファンしか存在を認知していない。竹原市はアニメをどう捉えているのかは不明だけど、市役所と観光拠点である「道の駅たけはら」には「たまゆら」の大型看板が設置してあったが、完全に色褪せて手入れは施されていなかった。猛暑と塩害の関係で劣化の進行が普通の土地より激しいのかもしれない。
竹原から出るフェリーにも「たまゆら」のイラストが描かれている。こちらは綺麗だった。

竹原駅もガラガラだった。全体的にシャッター街と化している。
僕たちのようなオタクのグループももうひと組来ており、フレンドリーな彼らは「道の駅たけはら」で地元の方にカメラを預けて「シャッターを押して下さい」と記念撮影をお願いしていた。地元の方は快諾していたが、なぜ彼らがくるのかよくわかっていない様子だった。僕も「道の駅たけはら」で地元の方と軽く言葉を交わしたが、ウリは昔から竹原を支えてきた「重要伝統的建造物群保存地区(「たまゆら」にも登場した京都を小さくしたような町並みだ)でありニッチな「たまゆら」は浸透していない印象を受けた。
上記したように深夜アニメな上に放映期間も短かった。田舎特有の高齢化の為に深夜アニメなんか見ている市民はいないんじゃないだろうか。
一応、竹原市のホームページには「たまゆら」のコンテンツが存在する。しかし扱いは小さい。 

アニメファンの発言としてはアレだが、それが正常だと思う。

竹原市は本当に田舎だ。僕も瀬戸内海の田舎生まれなので街がどういう構造なのか一巡すれば大雑把だけど把握できた。
駅もある街の中心地は基本的にシャッター商店街になっており、金の流れがいいのは市民が集まりやすい「道の駅たけはら」か、ガストやすきや、ジョイフルといった大型駐車場を完備しているフランチャイズが固まっている町の外だ。
アニメ「たまゆら」のようにお好み焼屋や創作料理コーヒーショップが大繁盛している訳じゃない。
海沿いには、アニメには絶対に登場しない巨大プラントが立ち並び、圧倒的な存在感を放っている。
「たまゆら」は二期が予定されているが、それでも、竹原市はずっとこの感じをキープしたままなんじゃないか。

                     ・『かみちゅ!尾道  

尾道も「かみちゅ!」以外にも上記した「尾道三部作」というメインストリームなジャンルを包括している割には完全にさびれていた。
かみちゅ!」もコアな深夜アニメだ。しかも五年前の放送だ。さらに全16話を観ようと思ったらDVDかBDを購入するかCSに加入してリピートを待たないといけないファン泣かせな作品になっている。
メディアワークスからコミックス版も二冊発売されているけど、これも作画が鳴子ハナハルというコアなマンガファンにしか認知されていない割にファンからは圧倒的支持を得ているという色んな意味でカリスマな作家だ。

駅前の食べ物屋は少なかった。商店街は完全にシャッター街になっている。
観光客目当てのこじゃれたコーヒーショップ(これが馬鹿に多い)ばかりイキイキしていた。地元向けの店は弱体化している。
尾道ラーメンを食べ比べてみた。駅前商店街のラーメンとホテルで出されるラーメン。基本は醤油ダレで味は同じ。
駅前商店街のスープは背油コテコテでマニア向け。ホテルのものは背油は全く浮いていないあっさりタイプだった。

ただし、田舎としては尾道は完全にフリーダムな空間だ。民家の間を歩けば開け放しのドアから屋内のラジオの音が聴こえてくる。
神社も勝手にズカズカ入れる。小学校も「かみちゅの中学校のモデルだ」とカメラを撮っているような怪しいヤツが居れば騒がれるご時世だけど、昔からの観光地というのも手伝ってか放置状態。
店では店頭のジイさんバアさんはただ坐っているだけ。千光寺になると喋りっぱなしだけれど、他の神社は客が自主的にお金を払って安置してあるろうそくやおみくじを利用する。無人状態だ。
観光客向けの店にも無人のものがちらほらあり、人間関係が固定している田舎の感覚をそのまま観光地にも当て嵌めて十数年過ごしてきた貫禄がある。
それだけに、広島方面はひとを選ぶと思う。気に入る人間はとことん気に入るはずだ。不便が嫌いというひとは肌に合わないだろう。

かみちゅ!」でも、地元を圧倒的に気に入っているキャラと、地元から脱出したがっているキャラの色分けが濃い。
観光名所として町おこしをする露骨な話もあった。

ホテルのテレビでは広島県民向けのCMが大量に流れていた。広島カープキャンペーンガールとか御当地キャラアニメのDVD販売とか。

とにかく街の雰囲気は瀬戸内海の景色と相まって独特だった。
僕個人はかなり気に入っている。実家の風景を圧縮したような箱庭感に泣きそうになった。
紋切り型の表現だけど、昭和の街という形容が相応しい。「かみちゅ!」は昭和40年代の尾道が舞台になっているけれど、駅前を抜けるとあの風景がそのまま平成の現在まで残っている。映画「三丁目の夕日」なんか可愛いものだ。
竹原〜尾道間の瀬戸内海沿いには列車が走っている。車からの景色でも圧巻だったから、今度来る時はこれに乗るのもいいかもしれない

                    ・『水木しげる』境港  

一方、鳥取の境港は繁盛していた。これに尽きる。

足をのばしたのは翌朝の平日だったが、夏休みということも手伝って観光名所の水木しげるロードは人で溢れていた。
とにかくマンガ推しで随所でマンガ関連イベントのポスターが見られた。僕が行った時にはやはり鳥取出身の青山剛昌谷口ジローを推していた。
手堅い職人気質の作家だ。萌えマンガ全盛時代にあって谷口ジローなんか知っているひとが何人いるのか怪しいけど、地味な名前でも青山剛昌と同ランクに扱い、大きくアピールする。
これも定期的に漫画家の名前が入れ換わるのだろう。フェリー乗り場にもマンガ関連のポスター、ちらしが設置してある。
境港市には観光協会が存在しており、トップに鬼太郎を起用している。

境港駅から水木しげる記念館に続く水木しげるロードの商店街は、ちらちらとシャッターが降りている。それでも多数のお客さんで埋まっている。
全店舗が水木しげるグッズを扱っているのも徹底している。本屋は完全に水木しげる関連書籍専門だ。水木しげる以外の書籍といえば京極夏彦荒俣宏だけ、と書けばわかるか。
街にはゲゲゲの鬼太郎のテーマがスピーカーで流れていて、鬼太郎の絵を描いた店の看板がひっきりなしに立っている。
商店街の道沿いには名物の妖怪の彫像やオブジェはもちろん、着ぐるみの鬼太郎が三人くらいるのか、随所で積極的に観光客の記念撮影に応じている
店の対応もチャッチャッとしているというか、威勢がいいというか明るいというか、とにかく朗らかでサービスがいい。
客の扱いに慣れている。もうお祭り状態だ。水木しげるロードは鬼太郎テーマーパークと化していた。

食べものも美味しい。海鮮料理の店が駅周辺に建ち並び、どれも昼時になると混雑する。手頃な値段で豪華なものが食べられる。
物価が安いのだろうけど、水木しげるロードへの拠点となる駅前に限ってはちょっと不思議なくらいで、市がかなりの手を加えているのがよそ者の僕にも分かった。

水木しげる記念館は何もいう必要はない。整備されており、手も込んでいる。ショボイ博物館、美術館より設備と展示が豊富だ。
水木しげるは戦前世代で、商業的にも作品的にも大成功を収めた。知名度が圧倒的に高い。鳥取が推すマンガ文化のオピニオン足り得ている。
水木しげる記念館には孫連れのお爺さんお婆さんも居たけれど、水木しげるを語るとなると戦中、戦後の日本も切り離せない。
また水木しげるが多数描いている妖怪の範囲は日本全国、世界各地に及ぶ。記念館内には妖怪と関連付けて県外の閲覧者も喜ばせるようなしかけが施してあった。
このへん、うまいことやってやがるなあ、という印象を受けた。

海沿いにも巨大プラントは当然あるけれど、水木しげるロードとは完全に分離されていた。

ホテルのテレビではニュースの時間になると県民以外にもアピールするかのように観光各所がひっきりなしに紹介されていた。

ICから下りて竹原、尾道へいく道はさびれていたが、ICから境港へ行く道は綺麗に整備されていた。
広島の道は入り組んでいたけど、鳥取は大きな道が多く分かり易い。鳥取は空港に続く道にもなっているので仕方ないのかもしれない。

鳥取日本海沿いで広島は瀬戸内海沿い。南と北に分かれただけの海の観光地だが、ここまで違う。気質も勿論関係しているだろう。
瀬戸内海好きとしてはこのままをキープしてほしいところだが、地元はそうではないだろうし。
しかし個人的には鳥取もいいけど、広島はもう一度行きたい場所になった。
なんだかんだいって変に商業化されていない分、画一化もされていないので景観は昔からそのままだし。鳥取は今住んでいる場所と遜色がない。だけど尾道と竹原は完全に別空間だった。
ちょっと不便なくらいがちょうどいいんだよ。地元の若い連中はそうじゃないんだろうけど。

もしこのブログを見ている広島の方がおられたら。間違いがあったり、「ここはこう」という箇所があればコメント欄にもで書きこんで下されば幸いです。広島尾道、竹原にはもう一度行きたいのです。僕にとって広島は、今回の旅行と「かみちゅ!」という深夜テレビアニメ作品でそういう場所になっているのです。

のんのんばあとオレ (講談社漫画文庫)

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かみちゅ! 1 (電撃コミックス)

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